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【コラム】なぜ人は機械式時計を選ぶのか?クオーツの時代でもなお、機械式時計が愛される理由とその魅力に迫る!

なぜ人は機械式時計を選ぶのか?クオーツの時代でもなお、機械式時計が愛される理由とその魅力に迫る!

有史以来、人類は正確な “とき” を知る術を求めてきました。

紀元前の日時計に始まった時計の歴史は水時計や振り子時計などと続き、100年ほど前からは懐中時計に替わって小型化された時計を腕に巻いて使うスタイルも当たり前の光景となりました。
ゼンマイで動く機械式の腕時計が一般的となって以降も小さなサイズのままに正確さを追求する試みは続き、電池で水晶振動子を動かすクオーツ式時計が生まれるとその精度は飛躍的に向上しました。
更に近年では原子時計の正確な時刻情報をデータとして受け取る電波時計やGPS時計が生まれ、誤差のない時刻を腕の上で確認することは容易な時代となっています。

時刻の正確さを求める人類の挑戦はここに至ってほぼ完成の域に達しましたが、ここで見逃せない事実があることをご存じでしょうか。
技術的には40年前に過去のものとなってしまったはずの機械式時計が未だに作られ続けており、しかも一部には人気が過熱するあまり入手が困難なものさえ存在しているのです。
時刻の正確さという決定的な点でクオーツ式時計に劣るはずの機械式時計がなぜ注目されているのでしょうか。今回のコラムでは世界中の多くの人たちを惹きつけてやまない機械式時計の魅力を紐解いていきます。

機械式時計とクオーツ式時計、その違いとは?

そもそも機械式時計はどのような特徴をもっているのでしょうか。

腕時計はその動力と調速機構(正確さのコントロール方法)で機械式時計とクオーツ式時計に大別されますが、まずは機械式時計とクオーツ式時計の違いを簡単におさらいしてみましょう。

機械式時計

  • 動力はゼンマイがほどける力。
  • 表示は針を用いるアナログ式が中心。日付などはディスクを用いることも。
  • ゼンマイを巻き上げ、時間を合わせて着用する。主なものは1日半~3日間ほどのゼンマイの駆動時間をもち、ほどけると止まる。
  • 動作中に生じる誤差は一日あたり数秒から数十秒。
  • 潤滑油の劣化が起こるため、数年に一度は機械内部の分解掃除=オーバーホールが必要。定期的なメンテナンスを施せば長期にわたる使用が可能。
  • 機械内部はごく一般的なものでも100個以上のパーツで構成され、複雑かつ繊細。また、多機能化や薄型化を進めるとたった一本を組み立てるために数週間以上を要することも。
MRG-B5000のケースが分解された様子
ハミルトンのスケルトンウォッチ。文字盤からゼンマイや歯車のメカニズムが見て楽しめる。

クオーツ式時計

  • 動力は電池。水晶振動子に電流を流すことで生じる振動を電気信号に変え、モーターや液晶を作動させる。
  • 表示はアナログ式に加え、液晶盤を用いたデジタル式もある。
  • 電池残量がある間は動き続け、普及しているボタン電池使用のものは2~3年程度で電池交換が必要。太陽電池や充電式のものもある。
  • 動作中の誤差は一般的なものでもひと月に十数秒程度。電波修正方式のものは毎日時刻が修正されるため、電波受信できる環境では誤差が生じない。
  • アナログ式の場合は分解掃除が必要となるが、その頻度は機械式時計より少ない傾向。コストダウンが図られたものは修理ができないものもある。太陽電池や液晶盤などの電子部品は長期使用で劣化するパーツあり。
  • 機械式時計に比べパーツ数が抑えられ、薄型化と大量生産の両立が可能。
MRG-B5000のケースが分解された様子

機械式時計と比べると桁違いに正確であり、電池の消耗があるまでは常に動き続けるなど、後発のテクノロジーだけあってクオーツ式時計の実用面での優位は揺るぎありません。実際、誕生当初こそ高額だったクオーツ式時計ですが、大量生産が可能になり徐々にコストダウンが進んだ70年代以降は瞬く間に機械式時計のシェアを奪うことになりました。

まだ携帯電話がない時代、より多くの人々の生活に手頃な価格で正確な時刻を届けたということを思うと、クオーツ式時計が世の中に与えた影響の大きさを感じずにはいられないですね。

機械式時計ならではの価値とは?

日本製の安価で正確なクオーツ式時計の普及によって窮地に立たされたのは、それまで機械式時計を世界中に輸出していたスイスの時計業界です。多くの歴史ある時計メーカーが経営不振による廃業に追い込まれていくなか、自らの生き残りをかけた動きを見せ始めるのは80年代半ば頃から。単純な正確さという一次的価値ではなく、人の感情に訴える付加価値に重きを置くようになっていくのです。

ではクオーツに対抗するためにスイスの時計メーカーが着目した機械式時計ならではの価値とはどういった点が挙げられるのでしょうか?

ゼンマイの高いトルクを活かす

ゼンマイは長くても数日でほどけてしまうという特徴がありますが、動いている間にゼンマイが発揮するパワーはクオーツ式時計のモーターの力を上回ります。

強いトルクのおかげで、クオーツ式時計では重さのために動かすことが難しい、長さと厚みのある見栄えのいい針を取り付けることができます。また、設計・製造にはノウハウが必要なもののストップウォッチや複雑なカレンダー表示など、通常の時刻とは別の追加機構を同時に作動させることも可能です。

職人技を見て愉しむ、工芸品的価値のアピール

それまでは時計職人しか見ることがなかったムーブメントを裏蓋のガラス越しに鑑賞できるようになったのも80年代以降です。

クオーツの無機質な電子回路と違って、多数の歯車が重なり合って動く機械式時計のムーブメントは、正確に時を刻むための創意工夫が幾重にも詰め込まれ、機械にこそ腕時計の本質的な価値があることを感じさせます。

さらに上質なものになればなるほど個々のパーツは丁寧に磨かれ、ムーブメント全体は宝石さながらに輝きます。伝統的な仕上げは部品の耐久性向上やスムーズな動作のために施されましたが、労力を惜しまない時計職人によって磨き上げられたムーブメントは美しく精緻な佇まいで見る人の心を打つのです。

MRG-B5000のケースが分解された様子
グランドセイコーの自動巻きムーブメント9SA5。性能に加え美観もスイスの一流メーカーに比肩する。

長期間使用でき、価値が保たれる

コスト優先で製造されたクオーツ式時計の場合は、分解と再組立をともなうメンテナンスに不向きなものも多く、また電子部品の劣化も起こるため、一部の高級仕様品を除くと長い年月のどこかで修理不可能となる時期がきます。一方の機械式時計は電子部品を使用しておらず、時計修復士によって不具合を起こしたパーツを調整、交換することで製造から数十年後でさえ再び時を刻み出すことができるのです。なかには創業から150年以上の歴史をもちながら、過去に自社で製造した全ての時計のメンテナンスを約束するブランドさえ存在します。

このように長期にわたって品質を維持できる機械式時計は市場価値も落ちづらく、人気モデルでは販売当時の価格より高い金額で売買されるものも見受けられます。

また、使い捨てにならないうえに電池などの廃棄部品も出ない機械式時計は、サステナビリティの観点からも現在注目されています。

上記のようにクオーツ式時計にはない、人の感情に訴えかける特徴を打ち出した高付加価値の商品開発に力を入れることによってスイスの時計業界は徐々に息を吹き返していきます。

安価なクオーツ式時計が広く普及することでかえって機械式時計の魅力が再発見され、ただの実用品以上の意味を持つ特別なモノへと変化していったのですね。

現代の機械式時計市場

現代はスマートフォンに加えウェアラブル端末も身近なものとなり、利便性の点での進歩は最初のクオーツ式時計が生まれた頃から比べて更に加速しています。

一方の機械式時計は、新素材や微細加工などの技術を積極的に取り入れてはいるものの、基本的な特徴は変わっていません。それにも関わらず、2023年にはスイスの時計輸出額が過去最高を更新するなど、機械式時計の存在感は高まる一方です。

一時期はクオーツ式時計に経営資源を集中していた日本の時計メーカーも、成功したスイスを追うようにして機械式時計の復活を試み、その独自性あるつくりで世界の時計ファンより再び注目されています。

また、SNSなどで話題になった時計が急に人気となり品薄になるというのも現代ならではの特徴で、これも多くのケースで数十年続くロングセラーシリーズの機械式時計であることが確認できます。

デジタル化がこれだけ進んだ現代社会でもアナログな機械式時計が人々に受け入れられているのは確かなので、これからも機械式時計はその命脈を保っていくと言えるでしょう。

MRG-B5000のケースが分解された様子

世代を超えて受け継ぐ、身に着けられる工芸品

その耐用年数のため長期にわたって自分に寄り添ってくれる機械式時計は、人生で起きる様々な出来事を共に過ごす相棒としての役割を担います。不運に見舞われたときや努力が実ったとき、常にそばにいて同じ時間を共有した時計には自然と愛着が湧いてくるはずです。

また、自分ひとりで使い切るものではなく、メンテナンスをしながら次の持ち主へと受け継いでいけるものともなり得ます。受け継がれていくのは、単なる時間確認のための道具ではなく、元の持ち主が共に過ごした時間と人生で大切にしていた想いと言えるのではないでしょうか。

実用品として身に着けて時刻を確認し、工芸品としての美しい仕上がりを鑑賞し、長い時間を共にしながら最終的には大切にしてくれる次の持ち主へと譲り受け継いでいく、これらの価値がひとつに融合していることが機械式時計を唯一無二の魅力あるものとして多くの人たちを惹きつけているのですね。

コラムを読んでこれから機械式時計の深い世界を覗いてみたいと思った方は是非金正堂本店にお越しいただき、様々な時計を触って比較していただきたいと思います。

スタッフがその知識と経験でお客様に相応しい時計選びをサポートさせていただきます!

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